太陽に恋をして
平日にも関わらず、シュラスコの店はそこそこ混んでいた。

陽気な音楽がかかる店内で、シュラスケイロと呼ばれる男性スタッフが、肉や野菜を刺した串ごとテーブルまで持ってきて、欲しい分だけ切り分けてくれる。

男性スタッフはみなブラジル人で、聞きなれない名前の肉をどんどんすすめてきた。

そのたびに、これどこの部位だろうとか、生っぽいけど大丈夫なのかな、などととりとめのない会話をし、二人でカイピリーニャというブラジルのカクテルを飲んだ。


「甘くておいしい」

レモン風味のそのカクテルをおいしそうにゆっくり飲みながら、楓佳が嬉しそうに笑う。


――クールビューティー――

高校生のころ、楓佳はそんな風に言われていた。

くせのないまっすぐな髪や、すらりとした手足、それにあまり表情が豊かではなく、めったに笑わないから。


服だって、黒やグレー、白といったモノトーンばかり着ている。

極度の人見知りだから、楓佳のことをよく知らない人からは「無愛想で冷たい人」と思われる。


中学高校と、同級生はもちろん下級生や上級生からも楓佳は人気があった。

だけど、話しかけにくいことでも有名だったから、楓佳に告白できたやつは一人もいない。


だけど、俺は知っている。

おいしいものを食べた時は、本当に嬉しそうに笑うこと。
家の中ではフードにクマの耳がついた部屋着を着ていること。
アザラシの抱き枕がないと寝られないこと。
俺が甘えると、なんだかんだ言いながら頭をなでてくれること。
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