太陽に恋をして
タクシーの運転手に行き先を告げると、俺は寝たふりをして楓佳の肩に頭を乗せた。


楓佳の髪からは、カラー剤とヘアサロンのシャンプーの香りがして、その香りは嗅ぎ慣れてるはずなのに、それが楓佳の髪だというだけで幸福感でいっぱいになる。



「ゆづ、もう少しだからね。寝ちゃだめだからね」


楓佳は不安そうに何度も言いながら、たまに俺の太ももをぺしぺしと叩く。


「ついたよ、ゆづ」

楓佳の言葉に、顔をあげる。
料金を払って、タクシーを降りると、楓佳はホッとしたように、ちゃんと帰れたね、と言った。



10階建ての茶色いレンガ造りのマンション。
その最上階、エレベーターを挟んで右が楓佳のうちで、反対側が俺のうちだけど、俺はエレベーターを降りると楓佳に続いて右に向かう。


「ゆづはあっちでしょ」


鍵を開けていた楓佳が、後ろにいた俺の体を左に向けさせて帰らそうとするのを無視して、楓佳のうちに入る。


「ここは私んち。ゆづんちは隣」


楓佳が玄関で騒ぐけど、俺は眠い眠い、と呟きながら、廊下を進む。

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