太陽に恋をして
5年ほど前、このあたりで一人暮らしの女性の部屋に男が忍び込んで、帰ってきたところを襲われるという事件があった。
その時の犯人は逮捕されたけど、俺はその時から、こんな風に楓佳が遅く帰ってきた時は必ず部屋に入ることにしている。
楓佳は一人暮らしではないけれど、ママは帰りが遅いし、仕事が忙しい時は職場に泊まり込むこともある。
帰ってきても、鍵を閉め忘れて爆睡するような人だから。
ひととおり、リビングを見渡して、異変がないことを確認すると、楓佳の部屋に入りベッドに潜り込んだ。
「ちょっと、ゆづ!寝ないで!ここ、私んち!」
楓佳はしばらく俺をゆさゆさと揺らしていたけど、そのうちに諦めたのか、無事に家に帰ったことで安心して酔いが回ってきたのか、
「しょうがないなぁ。奥つめて」
俺の背中を押すと、するりとベッドに潜り込んできた。
しばらくじっとして、後ろから穏やかな寝息が聞こえてくると、そっとベッドから降りて部屋の電気を消して、豆電球だけつけておく。
楓佳は真っ暗だと寝れないタイプだから。
豆電球の灯りに照らされた楓佳の寝顔をしばらく見つめた。
陶器のような頬、少し開いた唇、多くはないけど長い睫毛、まるいおでこ。
それに形のいい小さな鼻。
それは、昔よく姉の美月(みづき)や楓佳に付き合って遊ばされたリカちゃん人形のものとよく似ている。
「おやすみ」
声に出さずに呟いて、楓佳がいつもしてくれるみたいに頭を撫でてから、目を閉じた。