太陽に恋をして
シャワーを浴びて、ママの部屋をのぞくと、ママが帰ってきた形跡はなかった。

編集部に泊まったのだろう。
外泊なんて、私だってしたことないのに。
うちでは娘の方がよっぽど真面目だな。


「ふうちゃーん」


コーヒーメーカーにペーパーをセットしていると、部屋から唯月の声がした。

コーヒー豆を入れてスイッチを押してから、部屋に戻ると唯月が布団の中から私を呼んでいる。


「なに?」

「あ、ふうちゃん。起きたらいないから、ビックリした」


子どもか…。
あきれて言葉も出ない。


私がいたから安心したのか、唯月はもう一度目を閉じてまた寝ようとする。


「ゆづ、起きて!もう8時」

「休みだから、もう少し寝かせて…」

「帰って寝て!」

「いやだ」


唯月は布団をぎゅう、っと抱き締めると、私に背中を向けた。


「ふうちゃん、今日なんか用事ある?」

唯月は背中を向けたまま、眠そうな声で聞く。


「ない」


ある、と嘘をつくこともできる。
だけど、私はどうしたって唯月に嘘はつけない。
唯月が絶対、私に嘘をつかないからかもしれない。
唯月がどんな時も私を信じてくれるからかもしれない。


「今日、美月が歩睦(あゆむ)と帰ってくるけど」

「本当?何時頃?」

「昼くらい」

「じゃあ、ケーキ買いに行くから着いてきて」


唯月はようやくゆっくり体を起こした。
沙耶さんにしてもらったという、外国人風ふわふわヘアが見事にボサボサになっていて笑った。


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