太陽に恋をして
シャワーを浴びて着替えをすませた唯月と、自転車で二人乗りをしてケーキ屋さんに向かう。


「あゆあゆに会うの久しぶり」


嬉しくて思わず頬が緩む。

美月ちゃんは、四年前に結婚して家を出ていった唯月の五つ上のお姉ちゃんで、歩睦くんはもうすぐ3歳になる美月ちゃんの子ども。

車で30分ほどの場所に住んでいる美月ちゃんたちは、二人でたまに実家に帰ってきて泊まる。

きょうだいのいない私は、美月ちゃんが大好きで、美月ちゃんも私を実の妹のようにかわいがってくれた。

ママと一緒によばれた美月ちゃんの結婚式で、唯月のパパよりも泣いたのは私で、唯月はその日、親族席に座らず、ずっと隣にいてくれた。


「さむーい」


風を切って自転車はびゅんびゅん進む。

唯月にしがみついて、唯月のダッフルコートのポケットに両手を入れると、奥の方に何かが入っている。

信号待ちの時に、出してみると、私の好きなイチゴミルクのキャンディだった。


「ゆづ、これ食べていい?」


唯月はちらっと振り向いて、いいよと笑う。


「進むよ。つかまって」


キャンディを口に入れると、ゴミを唯月のポケットに入れて、しがみついた。


「あっ、そうだ。ねぇゆづ」


ゆっくり自転車をこぐ唯月の背中に声をかける。


「なに?」


「ケーキで思い出したんだけどさ、うちの百貨店の二階フロアにパンケーキのお店ができたの」


「へぇ、パンケーキか」


「ホイップクリームが山盛りだって。今度、食べに行こうよ」


「山盛り」


唯月はおかしそうに笑い、いいよと言ってから立ちこぎをした。



ケーキ屋さんまであと少しだ。


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