太陽に恋をして
「きれいにしてあげたい人がいたからです」


俺が答えるとお客さまは、よくわからない、といった顔であいまいに頷いた。


その顔を見ながら、次からは沙耶さんみたいに分かりやすく単純な理由を考えておこう、なんて思う。


ロッドを巻き終えパーマ液をかけたところで、


「じゃあ、これでしばらくお時間置きますね」


お客さまに声をかけ、ワゴンを押してバックヤードに入る。



「唯月くんのきれいにしてあげたい人って楓佳ちゃんでしょ?」


わずかな時間でメロンパンをかじっていた沙耶さんが得意気にそう言った。


「まぁ…はい」


小さい冷蔵庫から、唯月とマジックで書いたエビアンを出して飲みながら答える。


「唯月くんのそーゆーとこ、沙耶さん好きだなぁ」


狭いバックヤードで、沙耶さんはそう言うとにやにや笑った。


今になって妙に照れ臭く、俺は冷たいエビアンを一気のみして、

「掃除してきます」

バックヤードを出て、古いイギリスのロックが流れる客席に戻る。


楓佳も知らない美容師になった本当の理由を、他の誰かに話したことを盛大に後悔しながら。



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