太陽に恋をして
西澤さんと来たのは、駅の反対側の通りにある小さなイタリアンの店だ。
俺は来たことはなかったけど、西澤さんは何度か来たことがあるらしい。


なすとほうれん草のトマトパスタをフォークに器用に巻き付け、小さい口で食べている西澤さんを見ながら、本当に女の子らしい子だな、と思う。

なんの根拠もないけど、きっと女きょうだいの末っ子で、星座はうお座に違いない。

なんとなく、そんな気がする。



「今日、ね」


グラスワインを3杯飲んだ頃、ようやく西澤さんが話し出した。

西澤さんは一杯目のカシスオレンジをまだ飲んでいる。
すっかり氷が溶けたカシスオレンジは、グラスの上の方が透明になっていた。


「戸田さんに叱られちゃって」


西澤さんは今日、俺たちの二つ先輩でジュニアスタイリストである戸田さんに、カラー剤の調合を指示されたらしい。


「戸田さん、早口だから、私よく聞こえなくて二液を間違っちゃって。戸田さんが気付いたから、大事には至らなかったんだけど、なんでちゃんと確認しないの、って。私、仕事遅いしすぐミスるし、みんなに迷惑かけてばっかり…」


話ながら、西澤さんの目はどんどん潤んでいく。




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