太陽に恋をして
「じゃあ、俺は電車だから」


この近くに住んでるから歩いて帰るという西澤さんと、店の前で分かれた。


「唯月くんも一人暮らししたらいいのに。店から近い方が楽だよ」


「あー、そうかもね」


曖昧に笑ってから、じゃ俺行くわと手を挙げる。


薄暗い道を反対方向に歩いていく西澤さんの小さな背中を見ながら、そうか彼女は一人暮らしなのか、と気付く。


「西澤さんっ」


振り向いた西澤さんに、



「部屋に待ち伏せしてる男がいるかもしれないから、入るとき気をつけて!」


少し大きな声で言うと、西澤さんは一瞬固まった。



「…唯月くんって気が利かない」


西澤さんはそう言って苦笑する。


「んっ?」


すごく重要なことを教えてあげたのに…。
むしろ、さっきの会話で一人暮らししてることに気付いて、気をつけるポイントを教えたんだから、気は利いてるはず。

「いいや。おやすみ。また明日ね」


西澤さんは、離れた場所からしばらく黙ってこちらを見ていたけど、あきらめたように手を振る。



「あ、帰り道も気をつけて!ちかんとか、引ったくりとか。女の子の夜の一人歩きは危ないから!」


聞こえたはずなのに、西澤さんはもう振り返らなかった。




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