太陽に恋をして
男の人はあっという間にラーメンを食べ終えると、トレイを横にやり、足を組んでクリアファイルから取り出した資料を見始めた。


その資料に『Gute Ware』の文字を見つけ、なるほどと思う。

三階の紳士服フロアーのショップ店員か。
道理でおしゃれなわけだ。


ここのショップは隣の人も着てるボタンダウンシャツが有名な、ドイツに本店がある店で、シンプルだけどおしゃれで唯月も好きだったはず。


そういえば、前に唯月がカラー剤やパーマ液がかかってすぐ服をだめにする、ってぼやいてたから、誕生日にここのシャツをプレゼントしようかな…。


「食べないの?」


塩焼きそばをお箸でつまんだまま、ぼんやりと考え事をしていたら、隣の人に急に声をかけられた。


「いや…俺が来た時から全然減ってないから」


男の人の目はいつのまにか、資料から私のトレイに向けられていた。


「…減ってますよ」

少しずつだけど、食べてます。
冷めてきたし。


「そっか、ごめん」


男の人は少し笑って、再び資料に目を落とそうとし、ふと動きを止めた。

< 33 / 110 >

この作品をシェア

pagetop