太陽に恋をして
「なんか…どっかで会ったことない?」


私は思わず、え?と目を見張った。
男の人は眉を寄せながら、私をまじまじと正面から見つめる。


目と眉の間が狭くて、もしかしたら北欧系のハーフかクォーターかもしれない。よく見たら、髪も瞳も少し色素が薄い気がする。


「…ない、と思います」


いくら見つめあっても、私には会った記憶がない。
仕方がないので正直にそう言うと、男の人は、

「いや、あるよ。あるある。どこでだったかなぁ…」


おでこをぽりぽりとかきながら、目を閉じる。


いろんなところで女の子に声をかけてるから、こういうことになるんだろう。


すっかり冷めた塩焼きそばと揚げシュウマイを食べ終えると、トレイと私物が入った透明のバッグを手に無言で立ち上がった。
男の人はまだ目を閉じたまま、ぶつぶつなにやら呟いている。




「ごちそうさまでした」


トレイを返却口に置き、おばさんに会釈して食堂から出ようとすると、


「矢野さん!」


後ろからさっきの男の人の声がした。


「待って!矢野さん、だよね?」


ラーメン鉢の載ったトレイを返却口に置いて、男の人はこちらに走ってきて、


「俺、柳原。柳原悠(やなぎはら ゆう)覚えてない?」


「…すみません、わかりません」


そっけなく答えながら、どうして私の名前を知っているんだろう、と思う。


「そうそう、その冷たい言い方。変わってないね、二年前と」


その柳原という人はおかしそうに笑いながら、


「泉谷教習所」


私が免許を取った教習所の名を口にした。



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