太陽に恋をして
保育園から高校までずっと私の後に着いてきてた唯月に、唯一先を越されたのが車の免許だった。

唯月は誕生日が三月の末だから、誕生日が来るとすぐに教習所の合宿に申込み、あっという間に免許を取って帰ってきた。

私はそのことが悔しくて、なかなか唯月の車に乗らなかった。

唯月は何回も、ふうちゃん乗ってよ、大丈夫だよ、俺安全運転だし、と見当違いのことを言い、根負けした私がしぶしぶ助手席に座ると、嬉しそうにドライブに連れていってくれた。
行き先は、車がないと行けない山の上にある遊園地で、一日中遊んだ私は運転する唯月の隣で爆睡したんだっけ。



私が免許を取ったのは、短大を卒業した春だ。
就職祝いにと、ママが教習所のお金を出してくれたから。



「教習所で一緒だったじゃん。高速教習の時、矢野さんすごいスピードだして教官に怒られてたでしょ」


「あ…」


うっすらと教習所で男の人に声をかけられた記憶がよみがえってきた。


「あのしつこかった人ですか?」


顔を合わせるたび、何度も名前を聞かれて、無視していると、教習所のテキストをちぎって連絡先を握らされたことがあった。


あの連絡先、どうしたんだっけ?
きっと見もせずにゴミ箱に捨てたのだろう。


「しつこかった人って…。まぁそうだけど」



柳原さんは、苦笑しながら下をむいた。


「矢野さん、名字しか教えてくれなくて、もちろん連絡もくれなかったもんなぁ」


「…すみません」


柳原さん、モテそうだし、軽そうだし、頭悪そうだし、遊んでそうだったもん、とは言わないでおく。

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