太陽に恋をして
その日の帰り道、社員用出口から出たところで、後ろから肩をぽん、と叩かれた。


振り返ると、カーキのモッズコートと黒のスキニーパンツに身を包んだ柳原さんだった。


カジュアルなイメージのあるモッズコートだけど、柳原さんが着るとなんだか大人っぽく見えるから不思議だ。



「矢野さん、お疲れ」


しばらく会わないと思ったのに…。
なんで一日に二回も会うのだろう。
もしかしたら、今まで気づかなかっただけで、何度も顔を合わしていたのかもしれない。
だとしたら、なんだかめんどくさい。


「そんな嫌そうな顔しなくても」


背の高い柳原さんががっくりと肩を落として小さい声で言う。


「ちょっと落ち込む…かも」



そうか。
自覚してなかったけど、私は今そんなに嫌そうな顔をしていたのか。
だとしたら、ちょっと悪いことしたな。



「駅まで行くの?遅いから送るよ」


いろいろと言い訳を考えていると、柳原さんが駅の方向を指差して言う。


「…け、」


結構です、と言おうとして、そこまで冷たくするのはさすがに悪いような気持ちになる。


「け?」


黙りこんだ私をのぞきこんで、柳原さんはおかしそうに笑う。


いえ、別に。
そう言うと柳原さんは、いこっかと笑って駅に続く歩道橋を登り始める。



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