太陽に恋をして
メイクをしているとママが部屋からのそーっと出てきた。

目の下のくまがすごい。


「楓佳(ふうか)、おはよ…」


「おはよ。コーヒー飲む?お水?」


「お水…」


冷蔵庫からエビアンを取って蓋を空けてから渡す。


「昨日も遅かったの?」


「1時くらい、かな?終電には間に合ったから…」


女性誌の編集者として働くママは女手ひとつで私を育ててくれた。

パパの顔を私は知らない。
だけど、パパがいないことに、不便なり寂しさなりを感じたことは今まで一度もなくて、きっとそれはママがうんと頑張ってきたからなんだと私は思う。


「楓佳、髪かわいいじゃない。ゆづくん、来てた?」


メイクを再開していると、ママが後ろからのぞきこむように私を見て言った。


「うん。さっき帰った」


「ゆづくん器用ねぇ。これどうなってるんだろう」

おそらく髪のリボンになってる部分を見つめながら、ママは不思議そうに呟く。

「そんなことより、ママ昨日も鍵閉まってなかったよ」


そのせいで、唯月が勝手に部屋に入って寝てたんだからね。

ママが遅くに帰ってきて鍵を閉め忘れるのも、それに気付いた唯月が勝手に入ってきて私の横で寝てるのも、いつものことだけど注意だけはきちんとしておかなければ。


「あ、ごめんごめん」

ママはあははと笑いながら、キッチンに向かった。


その後ろ姿からは反省の欠片さえも見つからなくて、私は唯月とママはよく似ていると思う。

注意してもちゃんと聞かないところ、寝起きが悪いところ。
服を脱ぎっぱなしにするところに、すぐに言い間違いをするところなんかも。

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