太陽に恋をして
「ゆづ、どれが食べたい?」


楓佳はラグの上にチョコを並べて目を輝かせる。


「どれでもいいよ。ふうちゃん選びなよ」


「じゃあこれ」


楓佳が選んだのは、帰りに西澤さんがくれたものだった。


薄いピンクの箱に、白いレースのリボンがついていて、まるで西澤さんみたいな小さい箱。


それを見ながら、今日の帰りのことを思い出す。


「唯月くん、この前はありがとう」

そう言って、西澤さんはこの小さな箱を俺に手渡した。


「あー、ありがと」

そんなに気を遣わなくていいのにと思いながら、じゃあお疲れ様、といいかけると、


「あのね、唯月くん」


西澤さんが俺のダッフルコートの袖をつかんで呼び止めた。


「私、友だちの出産祝いになに買ったらいいかわかんなくて、店長に聞いたら唯月くんのお友だちがベビー服のお店で働いてるから教えてもらえばって…」


「あー、うん。それ、petite lapinっていう店。駅の近くの百貨店の7階にあるから行ってみたら?」


「…あの…じゃなくて。一緒に選んでもらえない、かな?」



このチョコはこれあげるから、一緒に着いてきてよって意味だったのか。


「…無理かな?」


無理です、僕忙しいので。

そう言えたら、どんなに楽だろう。


軽々しくチョコを受け取った数分前の自分を恨む。


「…来週の店休日の午前中なら、大丈夫、です」


確か、その日は楓佳は遅番だったから。

楓佳がいない時にササッと行って帰ろう。
西澤さんと二人でいるところを楓佳に見られるのは嫌だから。

例え、そんなところを見たって、楓佳がなんにも感じないとしても。

俺が、楓佳に平気な顔で接客されるなんて、耐えられないから。




< 43 / 110 >

この作品をシェア

pagetop