太陽に恋をして
開店したばかりの百貨店は空いていた。
化粧品や小物類が置いてある一階フロアを突っ切る。

とにかく、早く用事を終わらせよう。
西澤さんと別れたら、どこかで時間を潰し、楓佳が入るころに顔を出そうかな…。


そんなことを考えながらエレベーターで7階まで上がり、迷うことなくpetite lapinに向かった俺は、店の前で思わず息を止めた。



「いらっしゃいませ」


聞きなれた声がして、楓佳が凛と立っている。



「…ふ」


「唯月くん、ここ?」


楓佳は、俺と西澤さんを不躾でない程度に何回か交互に見ると、

「なにかお探しですか?」

と、西澤さんに声をかけた。


「あ、はい。友だちの出産祝いで…」


「女の子でいらっしゃいますか?それとも男の子でしょうか?」


「女の子です」


西澤さんは、俺の方をちらりと振り返ってから、ベビー服が並ぶ棚に目をやった。


「今の時期でしたら、夏用に70センチのロンパースはいかがでございますか?」


楓佳は薄いピンク色の半袖を手に取りながら、丁寧にそして完璧に接客をしていた。


俺はそんな楓佳をただ店の前で見ていた。


少しくらい。

少しくらい、ショックを受けてくれたっていいのに。



「おのしは出産祝いでよろしいですか?」


楓佳は俺の方は少しも見なかった。


「ありがとうございました」

いつもと変わらぬ接客をして、いつもと変わらぬ声を出して、いつもと変わらぬ笑顔で西澤さんを見送った。
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