太陽に恋をして
「別に…」

別に、なにもない。

ただ、唯月が女の子とお店にきただけ。
ふわふわの髪をして、白いコートを着た背の小さいかわいらしい子だ。

ああ、そうか。
唯月って意外と理想が高かったんだ。

考えてみれば、いままで唯月にそういう特定の子がいなかったことのほうが不思議なんだ。
中学でも高校でも唯月はもててたし、今だってお客さんや美容師さんから人気があるんだろうな、という感じはする。


「…矢野さん?」


ふと隣を見ると、柳原さんが心配そうに私を見ていた。
柳原さんのラーメン鉢はすっかり空になっている。


「…なんか怒ってる?」


「え?」


知らず知らずのうちに、眉間に思いきり皺を寄せていたらしい。


「すみません、ちょっと考え事してて」

大体、私がこの歳になるまでデートをしたことがないというのに、唯月がしているなんておかしい。

そもそも、私だってデートのひとつやふたつ、しようと思えば出来たはず。
どうして、そういうチャンスに恵まれなかったかと言えば、唯月がずっと私にくっついていたからじゃないのか。

中学校で私がテニス部に入れば唯月も真似してテニス部に入り、高校の頃ファミレスでバイトをすれば唯月も同じ店でバイトを始め、高3で塾に通えば唯月も通い始めるといった具合に、私は青春のほとんどを唯月のお世話に費やした。

周りの友だちが彼氏が欲しいとざわつき始めるクリスマスや誕生日、バレンタインデーも唯月と過ごしてたし、見たい映画も流行りのお店も唯月と行けるから、彼氏がいなくても不便を感じたことがそもそもなかったような気がする。

なのに。
唯月はちゃっかりかわいい女の子とデートなんかしちゃって。



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