太陽に恋をして
名刺を手に取り、まじまじと眺めていると、柳原さんはボールペンをくるくると回しながら、もしよかったら、と言う。

「矢野さんの連絡先も教えてもらえると嬉しいんだけど…」


「あぁ、そうですね。気が利かなくてすみません」


もごもご言いながら、職場で使っている名刺を一枚取り出し、柳原さんに借りたボールペンでアドレスと電話番号を書き加えた。


「矢野楓佳ちゃん」

柳原さんが私の名刺を見ながらにっこり笑う。


「二年越しでやっと名前教えてくれた」

なんて返していいかわからず、黙っていると、


「楓佳ちゃん」

と呼ばれた。


「今日は早番?」

私がこくりとうなづくと、柳原さんは俺もと笑って、


「こないだ言ってたいいワイン置いてる店、よかったら今日どうかな?」


長い指でボールペンを回しながら聞いた。


くるくると華麗に回るボールペンを見ながら、これ高校の時みんなしてたなぁ、なんて思う。

テスト勉強を途中で放り出して、よく唯月と練習したっけ。


「予定があるなら」


「大丈夫です」


柳原さんの言葉を遮るように私は答えた。

柳原さんの指先でくるくると回っていたボールペンがポロリと落ちる。


「じゃあ…従業員出入口のとこで待ってる」


柳原さんはほんの少し黙ったあと、そう言って立ち上がり長い腕でボールペンを拾った。

はい、と返事しながら、私はスープに浮かんだままのなるとをちらりと見て立ち上がる。


私だって、デートくらいしようと思えばいつでも出来るんだから…。


帰ったら、唯月に自慢してやろう。




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