太陽に恋をして
マンションの横にある、小さな滑り台しかない公園のベンチに三人で座り、星を眺める。


歩睦は足をぶらぶらさせながら、


「ふーかちゃんまだかなぁ」


公園の前を人が通るたびに、目をこらして楓佳かどうか確かめている。


「あと5分したら帰るからな」


楓佳に会ったら、事情を説明しようと思う。
あの子はただの同期で店がわからないというから付き合っただけだと。

楓佳にとってはどうでもいいことなのかもしれないけど、もしかしたらほんの少しでも妬きもちのような気持ちを抱いてるかもしれないから。



その時、マンションの前に一台のタクシーが停まり、ドアが開いた。


「あっ、ふーかちゃんだ」

歩睦はそれを見るやいなや、ベンチからぴょんと弾みをつけて飛び降り、タクシーに駆け寄る。


「歩睦、危ないよ」

美月と二人で歩睦を追いかけてタクシーの近くまで行くと、そこにいたのは確かに楓佳だった。


楓佳は歩睦を見ると、あゆあゆーと言いながらふにゃんと笑う。


「ふーかちゃんどこ行ってたのー?」


腰にぎゅっと抱きつく歩睦の頭を撫でてから、楓佳は急に思い出したようにタクシーの中にいた人に向かってお辞儀をした。


「柳原さん、今日はありがとうございました」


その声につられるように、歩睦と美月と俺がタクシーの中を見ると、中に座っていた人は軽く会釈をして、


「こちらこそありがとう。おやすみ」


男の俺でもハッとするくらいきれいな笑顔を見せた。

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