太陽に恋をして
「じゃあおやすみ」

いつも通りに楓佳のうちの安全を確かめてから玄関に向かうと、楓佳はへらへらと笑いながら、帰るの?と聞いた。


「いつも眠いって言って泊まるのに」


「今日は…帰る」


「ふぅん、いろいろ教えてあげようと思ったのにー」


「…なにを?」


「食べたものとかー」


「いい」


楓佳に聞こえないように、小さくため息をついた。


「ちゃんと鍵しめて」


「はーい」


ばいばいと手を振る楓佳をちらりと見てから、ドアを閉めた。
中から鍵を閉める音がして、ホッと息を吐く。



自分の家に戻ると、歩睦は母さんと風呂に入っていて、リビングでは美月が一人でビールを飲んでいた。


「唯月も飲む?」


そう言って差し出されたビールを黙って受け取り、美月の隣に座る。


「あんたってさ…」


しばらく黙ってビールを飲んだあと、美月が口を開いた。


「相変わらずどんくさい」


「黙れ、ブス」


美月はふふっと笑う。


「どうするの?」


「…どうって?」


「このまま楓佳ちゃんさらわれちゃうかもよ?」


「…あいつにさらわれるくらいなら」


タクシーの中にいた男を思い出しながら、俺は言う。
せめて、もっと不細工な男だったらよかったのに。


「歩睦にやる方がまだましだ」


美月は、そうだねーと呟いて、ビールを飲み干し、

「あの人、かっこよかったけどさ」


そう言うと、目を細めて俺を見る。


「唯月の方がいい男だと思うよ」


なに言ってんだよ。
あいつ見た時、ひゃーとかなんとか呟いてたくせに。


でも…



「…さんきゅ」


残ったビールを飲み干して俺は立ち上がると、2本目のビールを持って自分の部屋に入った。

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