太陽に恋をして
歩きなれない雪道を、おっかなびっくり柳原さんと歩いた。

柳原さんは片方の手で傘をさして、もう片方の手を私の肩に添えてくれた。

今までは気づかなかったけど、柳原さんからは男性もののフレグランスの香りがして、唯月とは全然違うその香りになんだか大人だなぁと思った。


タクシーやバスを待つ人々で行列ができているロータリーをぬけ、駅の反対側にある水色の細い建物のドアを開ける。


明かりを落とした店内の中央には円柱の水槽があり、中を色とりどりの小さな熱帯魚が自由に泳ぎ回っていた。


「かわいい…」


案内された二人掛けのソファはその水槽をぐるりと囲んだ形になっていて、座ると目の前を熱帯魚が泳ぐのが見える。


「いい席が空いてて良かった」


隣に腰掛けながら、柳原さんがホッとしたように呟く。


きれいな水色のカクテルと軽い食事をとりながら、


「柳原さんってお洒落なお店いっぱい知ってますね」


柳原さんはもてるだろうし、たくさんの子とデートしてるんだろうなぁ、なんて思いながらそう言うと、


「楓佳ちゃんを連れてこようと思って調べたんだよ」

柳原さんは熱帯魚の水槽を見つめたまま、そう言った。


「本当は楓佳ちゃんにずっと前から気付いてた。名前が思い出せないっていうのも嘘。本当は名前覚えてたよ」


柳原さんはそう言うと、私の目をじっと見る。



「たまたま社員食堂で見かけて、教習所で会った子だってすぐわかった。なんかストーカーっぽいから言わなかったけど」


柳原さんは私から目をそらして、ははっと笑う。


「教習所の時は結構冷たくあしらわれたから、今回もダメかなぁって思ってたけど…こうして話せるようになって嬉しい。ありがとう」


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