太陽に恋をして
「あ!ゆづ!」


見慣れた黒色のRV車が少し離れた場所にとまったのを見て、私は思わず駆け寄った。


「ふうちゃん、おまたせ」


「ゆづ、ありがとう」



運転席に座る唯月とドア越しに話してから、柳原さんを振り返る。


「柳原さん、ご馳走さまでした。また明日。お疲れ様です」

ぺこりとお辞儀をすると、柳原さんは片手をあげて反対方向に歩き出した。


それを見送って、助手席に座ったあとで、はっと思い出す。

「ゆづに柳原さんの瞳の模様、見せるの忘れてた!」


唯月をみると、唯月は前をじっと見たまま怖い顔をしている。


「ねぇ、ゆづ。あのね、柳原さんのね…」


「今、話しかけないで。雪道で集中してるから」


「あ、ごめん」


珍しく真面目な顔をする唯月の横顔を見ながら、唯月ってこんな顔だっけ、と急に思った。
こんな真面目な顔、久しぶりに見たような気がする。


「…ふうちゃんさ」

赤信号でとまった時に、唯月が口を開いた。


「なぁに?」


「…やっぱいい。なんでもない」


「なによ、そういうの気になるからやめてよ」


それからいくら私が話しかけても、唯月は一言も話さなかった。

ただ黙って、真面目な顔で車の運転をしていた。


やんだと思っていた雪が、またふわふわと降り始めていた。



< 69 / 110 >

この作品をシェア

pagetop