太陽に恋をして
hair BLISS

都内に5店舗を展開する、20代から30代の学生やOLをターゲットにしたヘアサロン。

白を基調とした開放的な店内は20席の客席があり、たいていいつも予約客で埋まっている。


「中川くん、辞めちゃったんだって」

朝のミーティングが終わり、ロッドの整理をしていると、同期のアシスタント、西澤さんがいつの間にか横にいて、なんとも悲しそうな声でそう言った。


美容師を夢見てヘアサロンに就職しても、アシスタントの仕事が厳しくて辞める人というのは案外多い。


手荒れや腰痛、長い拘束時間と不規則な休日、さらには安月給ときているのだから辞めるのも無理もない。

美容学校を卒業して国家試験に受かったからといって、すぐ美容師になれるわけではなく、少なくとも2、3年はシャンプーやカラーなど、スタイリストのアシスタントをしてから、スタイリストデビューになる。

それまではお客様の髪を切ることが出来ないので、閉店後、アシスタントの多くは遅くまでカットなどの練習をして腕を磨いている。



「中川くん?こないだ入ったばっかの子?」

一緒にロッドを並べながら俺が聞くと、そうそうと呟いて、西澤さんはため息をついた。

新人が辞めるたび、自分が悪いわけでもないのに、西澤さんはこうしていちいち落ち込む。

傷付きやすい子なんだろう、と思う。
仕事でへまして、バックヤードでこっそり泣いてるのをもう何度も見かけた。


「私たちも来年の春にはスタイリストデビュー出来るかなぁ…」


一人言みたいに呟く西澤さんのくるくるとしたまつげをなんとなく見ながら、そうだなぁ、とぼんやり返した。
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