太陽に恋をして
「唯月くんはどうするの?」


バックヤードで薬剤の在庫を数えていると、いつの間にか西澤さんが隣に来ていた。


こないだのこと、謝ったほうがいいかな、と思いつつも、なんと説明すればいいかわからずそのままだった。


「どうするって、何が?」


「大阪」


西澤さんは唇をきゅっと結んで、俺を見上げる。
斜め上から見ると、濃くて長いまつげがまるで人形のようだ。


「行かないよ」


俺は行かない。
大阪には楓佳がいない。
楓佳がいない町で暮らすなんて、俺には出来ない。


「私は行こうと思ってる」


小さいながらもはっきりとした声で西澤さんは言った。


「だってチャンスだもん。新規オープンのスタッフになれるなんて」


西澤さんはすげぇなあと思った。
チャンスがあって、そこに飛び込む勇気もある。
きっと大阪でも今みたいに頑張るのだろう。


どこか他人事みたいにそんなことを考えていると、西澤さんが俺を見上げた。


「…私はね、唯月くんと一緒に行けたらいいなって思ってる」


「俺と?なんで?」

聞いてから、西澤さんの頬が赤く染まっていることに気付いてた。


「…言わなきゃわからないかな」


「つまり…そっか。今わかった。ごめん」



俺が謝ると、西澤さんはおかしそうに吹き出した。


「本当、唯月くんって鈍い」


「ごめん」



西澤さんは声を殺して笑いながら、いいよと答え、


「考えといてね、大阪のことも、私への返事も」


そう言うと、バックヤードを小走りで出ていった。


手にしたリストに在庫数を書き込みながら、考えとくもなにもと思う。


考えるまでもなく、答えは出てる。

俺は大阪には行かないし、西澤さんの気持ちにも答えられない。




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