太陽に恋をして
そういえば、唯月はあのかわいい子の話してくれなかったな。


唯月からしたら、そんなこといちいち報告しなくていいのかな。


今まで、大事なことも、どんな下らないことも、全部唯月に話して相談してきたけど、もしかしたらそれは私だけだったのかもしれない。


「楓佳ちゃん」


肩を叩かれ振り返ると、柳原さんが立っていた。
細身の黒のコートを着た柳原さんはモデルのようで、通りすぎる人たちが振り返って見ている。


「ごめんね、急に呼び出して」


「いえ、どうせ暇してたので」


白い息を弾ませて、謝る柳原さんにそう言った。


仕事が休みだった今日、私は朝から部屋の掃除をしていた。
唯月は仕事で、そうすると一人でなんにもすることがなくて、ぼんやりしていた時にちょうど柳原さんからメールがきたのだ。


『一緒にイルミネーションを見に行きませんか?』


駅の大通りから近くの公園かけて、20万球のイルミネーションが点灯されて、この時期は人で賑わっている。

雑誌にも載って話題になっていたから、唯月でも誘っていこうかな、と思っていた。


「前から行きたいと思ってたんだけど、一人では行きにくくてさ」


「柳原さんなら声を掛ければ一緒に行ってくれる子たくさんいるでしょう?」


「…いないよ」



隣を歩く柳原さんを思わず見上げた。


「いますよ」


「一緒に行ってくれる子はいるかもしれないけど、一緒に行きたい子は一人しかいないよ」


そう言うと、柳原さんは私の手を握った。

唯月とは違うひんやりした指や手のひらの感触に、胸の鼓動が早まった。




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