太陽に恋をして
夜8時、最後のお客様を見送ってから、スタッフ全員で掃除をしている間も、その後のミーティングの最中も、店頭が気になって仕方がなかった。

楓佳が来るのは9時なのに。

もし楓佳が早く着いて、この寒い中、外で待っていたらなんて思うと、ミーティング早く終わらねぇかな、なんて思う。

「じゃあ、お疲れ様でした」


桐谷店長の掛け声を合図に口々にお疲れ様、と言い合いながら、帰る人とレッスンのために残る人とに分かれる。


「あ、唯月くん、あれ楓佳ちゃんじゃない?」


そう言いながら、店頭を指差したのは、トップスタイリストの沙耶さんだ。

ベリーショートが似合うさばさばした沙耶さんは、外国人風カットが得意でお客様からの指名も多い。

俺のレッスンも、ほとんど沙耶さんがついてくれているから、楓佳のこともよく知っている。


「モンチッチみたいな人」

楓佳が愛情をこめて、沙耶さんのことをそんな風に呼んでてることは、本人には内緒だけど。



沙耶さんに言われるまでもなく、楓佳が来るのに気づいていた俺は、電源の切った自動ドアをなるべく指紋がつかないように開けて、楓佳を呼んだ。


自動ドアの隙間から、外の冷たい空気とともに、黒いコート姿の楓佳が入ってくる。


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