太陽に恋をして
「さっき、私がその柳原さんだっけ…と一緒に行ったら?って言った時、首を振ったのはどうして?」


加奈さんは温かいミルクティを飲みながら、首を少し傾げた。


「それは…だって、柳原さんは甘いものが苦手っぽいし、それに…」


「それに?」


「…こんな女の子ばっかりのお店、なんだか悪いし…それに」


「それに?」


黙って考えていると、かかとにズキズキと鈍い痛みを感じた。


「柳原さんはかっこよくて優しくて大人ですごく素敵な人なんです。でも…なんだか疲れちゃうんです」


履き慣れないハイヒールみたいに。


加奈さんはなにも言わなかった。


きゃはははと隣の席から、女の子たちの笑い声が聞こえてくる。


「ドキドキしすぎて疲れちゃうのかな」

沈んだ空気を変えようと私はわざとおどけて明るく言った。


「うちの旦那はね、前にも話したけど、妊婦の私がいるのにブラジルの酒を飲んで先に酔いつぶれちゃうような人なの。バカだし間抜けだしスマートでもない。お洒落なお店も知らないし、女心もわかってない。って私結構ひどいこと言ってるね」


加奈さんはあはは、とおかしそうに笑って、そのあとでとても幸福そうな顔をした。


「だけど、一緒にいると楽しくて、いつも笑わせてくれて、そんな旦那が私は大好きなの」


照れもせず、まるで天気の話でもするかのようだった。


「どうでもいいことで笑って、時々喧嘩してそれでも一緒にいたいと思う。旦那となら、年を取っても、何かとてつもなく悲しいことが起きても二人で笑っていられる気がするの」
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