太陽に恋をして
「…まさか唯月くんが行くなんて言い出すとは思わなかったよ」


店を後にして、駅まで並んで歩きながら、沙耶さんが初めて口を開いた。


「すみません。いろいろ教えてもらったのに」


「そんなこと言ってるんじゃないの。私も唯月くんなら大阪でも活躍すると思う。なんせ私が一から教えてあげたんだからね」


沙耶さんは俺を横目で軽く睨んで笑った。


「そうじゃなくて…」


沙耶さんは言葉を探すようにしばらく黙りこんだ。


「きれいにしてあげたい人がいたんじゃなかったの?」


月明かりに伸びる二つの影を眺めていた俺は、思わず立ち止まる。


「いいの?せっかくスタイリストになれるのに。楓佳ちゃん、きれいにしてあげなくていいの?」


沙耶さんは俺の真正面に立ち、まっすぐに俺を見つめた。



「…いいんです、もう」


「え?」



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