太陽に恋をして
「メール見た?」


コートとバッグを預かりながら俺が聞くと、楓佳はえ?と眉を寄せ、メールした?と聞き返す。

「したよ」

「気づかなかった」

やっぱりな。

なんのために携帯を持っているんだろう、と思うくらい、楓佳は携帯をチェックしない子だから。

「カラーする?ってメールしたんだけど」

前に染めたのは4ヶ月前。
少し色がぬけてきている。


「カラーか…」

楓佳はすぐそばの鏡をのぞきこみ、しばらく考えた後、しようかなと呟いた。


「ん。じゃシャンプーするから」

店長や沙耶さんに声をかけて、楓佳をシャンプー台に座らせた。

楓佳の髪にさしたヘアピンを抜き取りながら、朝セットした髪が少しも崩れていないことにほっとする。


「髪、かわいいって。ママと加奈さんが」


「じゃあまたしてやるよ」


「うん」


それきり、カラーとカットが終わるまで、俺も楓佳もほとんど話さなかった。


楓佳は髪を切る俺の手元を鏡越しに真剣に見つめていて、俺は少し緊張する。

「ハサミがシャキシャキなる音が好きだ 」

美容学校に入って初めて、俺の部屋で楓佳の髪を切った時に楓佳はそう言っていた。

当たり前だけど、仕上がりは結構ひどくて左右の長さもラインもめちゃくちゃだったけど、楓佳は少しも気にしていない様子でさっぱりした、と笑った。

あれから、4年が経つ。

俺は少しは上達しただろうか。


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