太陽に恋をして
「楓佳は…美容院が嫌いなんです」


ガードレールにもたれて俺は目を伏せた。
足元のアスファルトの隙間から雑草が力強く生えている。



「俺がいなくなったらきっと限界まで我慢して、結局うちの店に来ると思うんです。そしたら、沙耶さんが切ってやってくれませんか?」



沙耶さんが、うんと頷くのが雰囲気でわかった。


「シャンプーの時、顔にかけるの、ガーゼだと嫌がるんでタオルで…」


ずれないように大きめに折ったものを。


「マッサージは肩甲骨のあたりを…。あいついつも肩甲骨が凝るんで」


首をするとこそばいって怒るから。


「あと、切ってる間は話しかけないでやってください」


『はさみがしゃきしゃきなる音が好き』
沙耶さんのはさみは俺よりもっといい音がするだろう。


「我が儘ばかり言いますが、よろしくお願いします。本当はかわいい髪に憧れてるんです」



顔を上げると、沙耶さんはわかったと頷いて、


「楓佳ちゃんは私が切る。唯月くんがお腹を下して帰ってくるまではね」


そう言うと大きな口を開けて笑った。


つられて笑いながら、きっと大丈夫だと思う。

沙耶さんならきっと、楓佳をかわいく切ってくれる。



< 90 / 110 >

この作品をシェア

pagetop