太陽に恋をして
それからしばらくは忙しい日が続いた。
大阪支店のマネージャーや店長、スタイリストが視察にきたり、大阪での住居を決めたり。

三月終わりの店内テストでは、無事に合格して、アシスタントからスタイリストに肩書きが変わった。

店のスタッフがお祝いをしてくれて、店長からは新しいシザーケースをもらった。


楓佳とは相変わらず連絡を取っていない。

大阪に行くことは内緒にしようと決めていた。


もしかしたら、楓佳が行かないで欲しいと泣いてくれるかもしれない、なんて淡い期待をして。

そんな期待をしたまま、大阪に行きたかった。

自分でも驚くほどに女々しい考え方だけど。


「ゆづ、頑張ってね!」
なんて笑って手を振られたりなんかしたら、俺は今度こそ本当にしょうがない人間になってしまいそうで、怖かった。




「唯月くん」


店のスタッフが俺と西澤さんの送迎会を開いてくれた帰り道、後ろから西澤さんが走って追いかけてきた。


「いよいよ明日だね」


息を弾ませて、西澤さんは俺を見上げる。


「待ち合わせ、遅れないでね。新幹線に乗り遅れたら大変だから」


「遅れないよ、今度はさすがに」


西澤さんは小さく笑って、月を見上げた。
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