太陽に恋をして
「まさか唯月くんが大阪に行くとは思わなかったよ」


「…うん、俺も思わなかった」


西澤さんは、なにそれ?と笑う。


「最初は行くつもりじゃなかったんだけどね」


「気が変わった?」


まぁそんなとこ。
月を見上げてぼんやりと呟く。


「私の気持ちは変わらないよ」


西澤さんの告白を忘れていたわけではないけど、正直それどころではなかった。
西澤さんの気持ちが変わらないのと同じで、俺の気持ちも変わることはない。


「ごめん」


だから謝った。
謝ることしか出来ないし。


「もうちょっと他に言い方があるでしょう」

西澤さんはあきれたような、そして少し怒ったような複雑な顔をして俺を見上げる。


「ま、いいや。大阪に行けばきっともっといい男がいるしね」


駅に着くと、西澤さんはじゃあ明日ね、と笑って手を振る。

「大阪でいい人が見つかるまでは好きでいてもいい?」


「どうぞ、お好きに」


心を込めてそう言ったのに、西澤さんはまたあの複雑な顔をした。


西澤さんにとっては、なにかが違うらしい。


「きっとすぐ見つかるよ」


なにが正解かわからないまま、西澤さんに手を振って別れた。


明日の新幹線は15時発。
楓佳のお隣さんでいられるのは今夜で終わりだ。


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