太陽に恋をして
「ゆづっ!」


新幹線のホームに、唯月がぽつんと、まるで捨て犬みたいに立っていた。
大阪行の新幹線が静かに待っている。


ほら、無理だよ。
一人で行くなんて。

「ゆづ…」


顔を上げた唯月に向かって、必死で走った。



「…どうしてっ、どうして私になにも言ってくれなかったの?」


唯月のコートをつかんで、私は唇を噛む。
気を抜くと、大声で泣いてしまいそうで。


「今まで…なんだって話してきたじゃない。私はなんだって…」


何も言わずにただ私を見下ろしていた唯月が、ふと足元に目をやる。


そこに落ちていたのは、Gute Wareの紙袋だった。


唯月はゆっくりそれを拾うと、これなに?と聞く。


「ゆづの誕生日プレゼントだよ…」


たくさんの種類の中から、唯月のことを思いながら選んだシャツ。



「いいよ。いらない」


唯月はゆっくりそう言うと、紙袋を私の手に握らせた。


「…え」


唯月は優しい目をしていた。



「…そろそろ時間だから」


そっと微笑んで、背を向けた唯月に向かって、


「い」


いやだ、行かないでと口から出そうになった時、新幹線からいつかの女の子が顔を出した。



「唯月くん、そろそろ出るよ」



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