太陽に恋をして
目が覚めて、隣に唯月の茶色の頭がなかった時、一瞬あれ?と思った。

「当たり前か」

いなくて当たり前なんだ。
むしろ、今まで一緒に寝てたことがおかしかったんでしょ。


もう三月も終わりなのに、朝は寒くてベッドから出られない。

寒い日、唯月の温かい足に自分の冷たい足先をはさんでもらって寝るのが私は好きだった。
唯月の温かい手のひらや足や背中が、私は本当に大好きだった。


コーヒーを飲んでいると、ママがぼさぼさの頭で部屋から出てきた。


「楓佳、おはよ」


「おはよ」


「ゆづくん、大阪に行ったんだって?」


そうよ。
平気な振りをして私は答える。


「うち、父親がいないじゃない?」


ママは髪をかきあげながら、私の向かいのソファにゆっくり座る。


「けど、ゆづくんがずっと一緒にいてくれたおかげで、楓佳にあんまり寂しい思いをさせずにすんだのかなって、ママはゆづくんに感謝してたの」


「違うよ、ママ。私が寂しい思いをせずにすんだのは、ママのおかげだよ」


ママがうんと頑張ってきたから。


「ゆづくんよ。だって、ママは仕事ばかりしてきたもの。ママもついゆづくんに甘えてしまっていたの。いつもゆづくん、楓佳のそばにいてくれたから」


ママはそっと腕を伸ばすと小さい子にするように私の頭を撫でた。


「ふぅちゃん、ふぅちゃんって、いつもあなたが寂しくないように、そばにいてくれたのよ」


ママは、私をのぞきこんでふんわりと微笑んだ。


「しばらくは早く帰れるようにするから。一緒に晩ごはん食べましょう」


こくり、と頷いた拍子に、膝に雫が一粒落ちた。



< 98 / 110 >

この作品をシェア

pagetop