太陽に恋をして
加奈さんが産休に入ったので私は今まで以上に働いている。

働いている時間だけは、なにも考えずにすむから。

カレンダーを眺めると、唯月が大阪に行ってからまだ一週間しか経っていなかった。

もう何年も経った気がするのに。


唯月がいない、ということをまだ現実として受け入れられていない私がいる。

ふとした瞬間「ここ今度ゆづと来よう」とか「これ今度ゆづと食べよう」と考えて次の瞬間に実感する。


ああ、そうだ
唯月はもういないんだった、と。



「楓佳ちゃん、元気ないね」


熱帯魚のバーで、隣に座った柳原さんが私をのぞきこんだ。


「なんかあった?」

柳原さんにはわからないだろう。

私と唯月が一緒にいた22年間で築き上げてきた関係性は。

恋人でもなく、きょうだいでもなく、家族でもなく、友だちでもなく。

他の人には絶対わからない。
唯月の不在によって生まれたこの寂しさは。



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