僕の好きな女の子
永遠の愛
あの日から希華ちゃんは学校に行かなくなった。
あの日少し早く帰ってきたパパさんはママさんから聞かされた話に泣いて希華ちゃんを抱きしめた。
ボクがこの家に来てから初めて見るパパさんの涙だった。
「お父さん達が希華を守るから。」
パパさんは希華ちゃんを抱きしめて言った。
パパさんの腕の中で希華ちゃんは泣いて何度も頷いた。
それからボクの話をしたんだ。
「クーちゃんが助けてくれたの。」
と、希華ちゃんは言ったけど、ボクは夢中だっただけなんだ。
パパさんは「そっか。お父さんもクーちゃん声聞きたかったな。」と言ってボクの頭を撫でた。
ボク自身もあの瞬間は奇跡としか思えなかったんだ。
今こうしてみんなが笑ってる、この時間は、もしかしたら無くなっていたかもしれないと思うと神様に感謝しても、足りないぐらいだった。

次の日パパさんとママさんは学校に行き、今回希華ちゃんの苦しみを伝えたけれど、学校側はイジメはなかったと言い切ったと帰って来て希華ちゃんに伝えた。
それを聞いた希華ちゃんは「やっぱり、そうだと思った。」と言った。
希華ちゃんは学校には何も期待してない様だった。

学校に行かなくなってから一週間程経った頃、月明かりが窓から差し込んだ綺麗な月の夜。
窓からボクは外を見ていた。
学校に行かなくなってから希華ちゃんは毎晩眠れるようになった。
優しくなった寝顔を見てると、これでよかったんだと思えた。
ご飯も食べるようになったし、自分自身を傷つけることもしなくなった。
寝る時のボクの定位置が出窓のこの場所だった。
なんだか外から声がする。
ボクはもう一度外を見た。
希華ちゃんと同じ年頃の女の子が庭にいる。
なんでこんな時間に、あんな所で何をしてるのかと思った。
見る限り一人でいるのだけれど、何かずっとブツブツと言っている。
誰かと会話してるみたいにも見える程だった。
二階のこの部屋からは、何を言ってるのかまではわからない。
月明かりで照らされた顔はボクが見ても普通の女の子には見えない。
何か凄く怖い。
おもむろにその女の子は鞄から丸められた新聞紙とライターを手にした。
それから、なにかの液体をばら撒く。
あれ…あれれ、あれってテレビで見た事がある。
なんだったかな…あれ、なんかのドラマで見たんだ。
昔、なんかのドラマで…。
女の子は片手に新聞紙を持って、もう片手にライターを持って家に近付いた。
女の子がニヤリと笑った。
「出流さん、さようなら。」
女の子が何かを言ったけれどボクにはわからない。
女の子が新聞紙にライターで火をつけた。
ボッと勢いよく新聞紙が燃え始める。
あっ放火だ。
思い出した!あれ放火っていうんだ!
女の子は燃えてる新聞紙の火を家に付けた。
その火はばら撒かれた液体に勢いよく燃え移り、さらに激しく燃えだした。
火はすぐに炎に変わる。
『希華ちゃん!!起きて!!火事だよっ!!』
ボクの声は届かない。
二度目の奇跡は起きないのかもしれない。
煙が窓から入ってくる。
咳き込むように希華ちゃんが目を覚ました。
パパさんの声がする。ママさんの叫ぶ声がする。
「希華!!起きろ!早く火事だ!」
すでに煙が目の前を塞ごうとしてる。
パパさんが希華ちゃんを抱きかかえ部屋を出ようとした。
「待って!クーちゃん…ゴホッ!!」
その声はパパさんに聞こえなかったらしく、そのまま一階に行ってしまった。
パパさんの腕の中からボクに向かって手が伸ばされていた。
いいんだ。パパさんにとってボクより希華ちゃんが大事なのは当たり前だし、ボクだって同じ事をしたと思うから。
あっでもお別れできなかったな…。
希華ちゃんが行ってから数分後、煙が黒くなり火が渦を巻いて二階に上がって来た。
サイレンと共に赤い車が数台家の前に止まった。
一斉に赤い車から水が家にかけられる。
ボクの後ろに熱くてたまらない火が近付く。
ジリジリとする。
『あぁボク燃えちゃうんだ。』
そう思った瞬間、しっぽに火が付いた。
窓から泣き叫びながらボクに手を伸ばし、何度も何度もボクの名前を呼ぶ希華ちゃんが見えた。
『希華ちゃん…。』
パパさんもママさんもボクを見ている。
綿で出来てるボクはすぐに炎に包まれた。
「やだぁぁ!クーちゃん!!!」
今にも家に飛び込もうとしそうな希華ちゃん。
大人二人で止めてるのに、その力も振りほどこうとしてる。



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