白衣の変人
「よ!墨原。」
軽い感じで声をかける男性を完全に無視して、墨原はつかつかと研究室の前に立ち、鍵を開けて中に入って行った。真璃もそれに続いて中に入る。後ろではあの女子大学生と男性が二言三言話して、男性だけ中に入ってきた。
「これ、鍵だ。」
墨原は机の上に置いていたであろう真璃の家の鍵を彼女に渡した。その様子を見た男性は、茶化すように話し始める。
「ひゅ~何々、そういう関係なの?墨原にも春が来たか~いや、そうだよな。俺達もういい歳だし?でもまさかバイトで雇った高校生と?そりゃあ犯罪の臭いが……。」
何だか勝手に勘違いされている気がして、その不本意な内容を改めさせようと真璃は口を開いた。
「だから、違います!これは私が昨日のバイトで忘れた私の家の鍵で、ないと困るから今日取りに来たんです!」
半ば怒鳴るように言った。いつの間にかソファに座っていた男性は、それを聞いて一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には笑い出していた。
「はははははは……なんだそっか~。こりゃあうっかりさんだったなぁ、君も、俺も。」
ひいひいと呼吸困難のようになりながら話す男性は、改めて見ると墨原とは対極のような感じだ。見た目も、中身も。茶色く染められた髪はワックスで軽く遊ばせており、白衣の中も墨原のようにキッチリとしたYシャツではなくパーカーで、遊び盛りの大学生を彷彿とさせる。ほんの少し近づけばシトラス系の爽やかな香りがする。
「……何をしに来たんだお前は。」
心底嫌そうに眉間に皺を寄せる墨原とは対照的に、男性は笑顔を崩さない。
「そんな怖い顔すんなよ~俺はさ、たまたま墨原の研究室の前通って、たまたまこの子を見かけて、話してたらお前が戻ってきたってだけなんだから。」
「私は何をしに来たかと聞いたんだが?三好(みよし)教授。」
三好と呼ばれた男性はやれやれと大げさに肩を竦めた。やはりこの人も教授なのか、と真璃はどこか遠くから思った。大学教授というのは変人しかいないのだろうか。それともこの大学が特殊なんだろうか。まだ大学生でない真璃には知る由もない。
「教授なんて役職名つけるなよ~俺ら、同期だろ?もっとフレンドリーにやろうぜ「用がないならさっさと出て行って頂きたいのですがね。そんなに雑談がしたいというなら、私以上の適任なんて腐る程いるでしょう。汐沢君も、もう用は済んだだろう。折角の休日を謳歌しては如何かな?」
それだけ言って墨原はいつものように机に向かって書き物を始めた。一つだけいつもと違うのは、片手にパンを持っていることだ。さっきどこかに出ていたのはそのパンを買いに行っていたのだろうと真璃は推測した。
(この人も人並みに食事するんだな……当たり前だけど。)
真璃はどこか感心しつつ、墨原に言われた通り部屋を出ようとした。真璃だって用が済んでしまえばこんなところに一秒たりとも長居などしたくはない。だが、そんな真璃の考えを知ってか知らずか三好は真璃の腕を掴んで引き止めた。
軽い感じで声をかける男性を完全に無視して、墨原はつかつかと研究室の前に立ち、鍵を開けて中に入って行った。真璃もそれに続いて中に入る。後ろではあの女子大学生と男性が二言三言話して、男性だけ中に入ってきた。
「これ、鍵だ。」
墨原は机の上に置いていたであろう真璃の家の鍵を彼女に渡した。その様子を見た男性は、茶化すように話し始める。
「ひゅ~何々、そういう関係なの?墨原にも春が来たか~いや、そうだよな。俺達もういい歳だし?でもまさかバイトで雇った高校生と?そりゃあ犯罪の臭いが……。」
何だか勝手に勘違いされている気がして、その不本意な内容を改めさせようと真璃は口を開いた。
「だから、違います!これは私が昨日のバイトで忘れた私の家の鍵で、ないと困るから今日取りに来たんです!」
半ば怒鳴るように言った。いつの間にかソファに座っていた男性は、それを聞いて一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には笑い出していた。
「はははははは……なんだそっか~。こりゃあうっかりさんだったなぁ、君も、俺も。」
ひいひいと呼吸困難のようになりながら話す男性は、改めて見ると墨原とは対極のような感じだ。見た目も、中身も。茶色く染められた髪はワックスで軽く遊ばせており、白衣の中も墨原のようにキッチリとしたYシャツではなくパーカーで、遊び盛りの大学生を彷彿とさせる。ほんの少し近づけばシトラス系の爽やかな香りがする。
「……何をしに来たんだお前は。」
心底嫌そうに眉間に皺を寄せる墨原とは対照的に、男性は笑顔を崩さない。
「そんな怖い顔すんなよ~俺はさ、たまたま墨原の研究室の前通って、たまたまこの子を見かけて、話してたらお前が戻ってきたってだけなんだから。」
「私は何をしに来たかと聞いたんだが?三好(みよし)教授。」
三好と呼ばれた男性はやれやれと大げさに肩を竦めた。やはりこの人も教授なのか、と真璃はどこか遠くから思った。大学教授というのは変人しかいないのだろうか。それともこの大学が特殊なんだろうか。まだ大学生でない真璃には知る由もない。
「教授なんて役職名つけるなよ~俺ら、同期だろ?もっとフレンドリーにやろうぜ「用がないならさっさと出て行って頂きたいのですがね。そんなに雑談がしたいというなら、私以上の適任なんて腐る程いるでしょう。汐沢君も、もう用は済んだだろう。折角の休日を謳歌しては如何かな?」
それだけ言って墨原はいつものように机に向かって書き物を始めた。一つだけいつもと違うのは、片手にパンを持っていることだ。さっきどこかに出ていたのはそのパンを買いに行っていたのだろうと真璃は推測した。
(この人も人並みに食事するんだな……当たり前だけど。)
真璃はどこか感心しつつ、墨原に言われた通り部屋を出ようとした。真璃だって用が済んでしまえばこんなところに一秒たりとも長居などしたくはない。だが、そんな真璃の考えを知ってか知らずか三好は真璃の腕を掴んで引き止めた。