白衣の変人
「え~まだいいじゃん。一緒に話そうよ!ね!あ、そうそう聞き忘れてた。君名前は?」


明るい声と笑顔はそのままに、だが力強く三好は真璃の腕を掴んでいる。帰す気はないようだ。その手を振り払う程の力は女性の真璃にはなく、ただただ面倒に巻き込まれた自分を恨んだ。どうしてこんなにも自分は運がないのだ、と。諦めて三好の隣に座ると、三好は真璃の腕を離した。この瞬間に逃げてしまおうかとも考えたが、三好に隙はなく、断念した。


「……汐沢といいます。」


「下の名前は~?俺は和泉(いずみ)っていうんだけど。」


「真璃です。」


「そっか~じゃあ真璃ちゃんって呼ぶね。俺のことは和泉でいいよ!あ、教授とか敬語とかいらないから。」


ぐいぐいとくる三好と、それに引き気味な真璃。軟派男とそれに絡まれて困っている女子の典型図のようだった。墨原はというと、「自分は関係ありません、空気です」とでもいうように黙々と机に向かっていた。


(た、助けてくれてもいいんじゃないかなこの状況……。)


真璃は心の中で墨原に悪態をついた。なんとかして抜け出したいと思うのに、この三好という男は意に介さない。


「あ、ねねね。これから一緒に遊ばない?俺もう今日は講義ないからさ~いいでしょ?」


「え、あの、困ります。」


「え~……あ、俺のこと警戒してる?なら、墨原も連れてこう!そうしよう!」


勝手に決めて勝手に話を進め始めた三好に、流石の墨原も椅子を反転させて異議を申し立てた。


「三好教授。私は貴方や彼女のように暇ではないのですがね。行くなら二人で行けばいい。」


(私が暇人だって言いたいのかこの人は!!)


私だってこんな明らかなチャラ男と、折角の休日を過ごす程暇ではない、なんて真璃は思ったが勿論口には出せない。馬鹿にするように鼻で笑った墨原の顔が憎たらしい。


「けって~い!じゃ、三人で行こう!どこがいいかな~。」


墨原や真璃の言葉なんて一切聞いていないのか、白衣からスマートフォンを取り出して、三好は何やら調べ始めた。大方、行く場所を調べているのだろうが……三好のその様子に、墨原はただただ顔をしかめている。


「お、ここいいかも!一通りスポーツできるし、カラオケもある!真璃ちゃんここでいい?」


三好は検索結果に出てきた場所を見せてきた。そこは、この大学からそう遠くない場所にあるアミューズメント施設で、楽しそうではあった(このメンバーで行きたいとは思わないが)。


「はあ……。」


真璃はもう何も言うまいとしていた。三好には何を言っても無駄だと悟ったのである。こうなれば、さっさと三好に満足してもらってさっさと帰るのが賢明だと判断したのだ。真璃が猛反論すると予測していたのか、墨原の表情は更に険しくなる。


「じゃ、早速行こう!」


三好は真璃と墨原を引きずるようにして研究室を出た。
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