●飴森くんの王子。
それよりも今は、転入生に意識を集中しよう。
こんなヤツに構ってても仕方がない。
あとでフードを無理やりにでも取ってやればいいだけの話。
それより転入生、メガネを掛けてて本を脇に抱えた文学系少女もアリかも。
それか身長低めのボクっ娘とか天使すぎて死ぬな。
「(ハッ、考えすぎてよだれが……いかんいかん)」
そんなあたしのイキすぎた期待を他所に、軋んだ音を立てて開いたドア。
コツ、という足音がいつの間にか静まり返った教室内に響き渡る。
そして教室に入ってきた姿に――――、
「――――っ……」
あたしは思わず息を呑んだ。
視界に映った姿があまりにも美しすぎて。
絶世の美少女という言葉だけでは言い尽くせないほどの神々しさ。
繊細さ、可憐さ、そして内に秘める熱さをも持っている美の象徴である少女。
これはもう、天使というより女神である。手を合わせて拝まねば。
「……ユーくん?」
「その声は……みーちゃん?」
いつの日からか忘れていた透き通った声は、
枯れた泉を潤す清らかな聖水。
あぁ、まさにドラマチック。劇的な再会。
この出会いは偶然でもあり必然でもある。そう、運命……!
引き離すことも、断ち切ることもできない赤い糸は
永遠の愛の中で眩しく輝いて…………
「妄想もそのへんにしときなよ。鳥肌が立つから」
「んぐっ」
ぐさり、言葉が刃物となって突き刺さるという現象は本当にあります。
血がどくどく流れて痛い、痛いよパトラッシュ……。
「なんで泣いてんの。鬱陶しい」
「君のナイフのような言葉がね……ストレートにね……」
あたしの言葉にはぁ? と聞き返してくるフードマン。
分からなくていいよ。というか分かってもらいたくないよ。
「(…………なんで、)」
この悲しさだけはね。
分かられてたまるかアホゥ。
「なんで、なんで男なんだよぉおおお!?」
堪え切れず立ち上がって指差した先には、
女神でも天使でも、想像した女の子たちでもなく。
――――ただ、男がいた。