●飴森くんの王子。
 
 
 
 
手を振り払おうとすると、フッとそいつと目が合った。
 
 
濡れた漆黒の双眸は、思わずドキリと心臓が跳ねるほど綺麗で。
瞳に宿る光がどこか哀しげなのに、それでも凛と強く瞬いている。
 
 
あ、こいつよくよく見れば……
 
 
 
 
「えーっと確か転入生の黒月くんだっけ? いや黒瀬くん? あ、腹黒くんか」
 
「黒しか合ってないし最後は絶対わざとだな。……黒崎帝。さっき挨拶したはずだけど」
 
「あー、そうだったね。黒宮くん、はやく手離せ」
 
 
 
 
残念ながらあたしは男子の名前を覚える脳を持ち合わせていないもんで。
これがすぐに忘れちゃうんだよな。ま、覚えたところで得はないからいいけどね!
 
 
 
 
「黒崎、ね。……飴森さん、ここじゃアレだからちょっとこっち来て」
 
「え、ちょ……おい!?」
 
 
 
 
黒沢くんはあたしの腕を掴み直すと、教室を出て廊下に出た。
……あれ、黒木くんだったっけ?

そして2組とは真反対の方へあたしを引きずっていく。
 
 
 
 
あぁ、隣のクラスのはずなのに2組が遠いよ。
そ、そうかこれが試練というヤツか。運命を引き裂こうとする悪魔の仕業か……!
 
 
 
 
「(チャンスがあったら逃げよう……そんでもって後でこいつフルボッコ確定だな)」
 
 
 
 
おし、と拳を固める。
というかあたしの腕を引っ張ってる黒田くん、
転入生らしくみんなに囲まれて質問攻めにでもあえよ!
 
 
それが転入生のお決まりパターンでしょそうでしょ!?
じゃないとあたしの想像と秩序が乱れるし崩れちゃうね。
 
 
 
 
「(あーあ、1時間目までに女の子の転入生、拝めるといいなぁ……)」
 
 
 
 
 
引きずられながら長い重いため息をついていたあたしは気づかなかった。

――――……この、心の中に密かに漂う小さな違和感に。
 
 

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