●飴森くんの王子。
黒崎くんはそう言うとニコォと機械的な笑みを浮かべた。
これはこれは……怒ってますね怒りすぎて笑えてくるという症状の表れですね。
「その……ごめん。謝ってなくて」
一応、あたしには道理も道徳もある。ちなみに知恵もある。
ここはしょんぼりしたような顔で謝っておくのが一番だうん。
「……まぁそのことには怒ってないからいいんだけど」
「じゃあお互い平和的に解決したことだし話は終わりだねグッバイ!!」
「……まだ終わってない」
早々と切り上げて教室を出ようとしたあたしの右腕を瞬時に掴んだ、黒崎くん。
この腕を掴んでいるのが女の子だったら即振り返って胸にダイブしてたけどね。
男子だったら速攻振り払って消臭スプレーかけまくって
制服だからクリーニングに出すね。無論クリーニング代も請求しますね。
だがしかし謝った手前手を振り払うことなどできず、
引きつったスマイルで向き直るしかなかった。
「な、何かなぁ黒崎くん。もうそろそろ1時間目始まっちまいますよ」
「……すぐ終わる話だから安心していいよ」
機械的笑顔のまま、有無を言わさぬ口調で言った黒崎くん。
その笑顔を見ると全然安心できないし安心しちゃいけないような気がするんだが。
「飴森さんとぶつかった時、オレ鞄につけてたストラップ壊しちゃったんだよね」
「へ、へぇ……それはそれはご愁傷様です」
合掌すると、黒崎くんは口元に浮かべていた機械的な笑みをフッと消した。
それはまるでろうそくに灯る炎が不自然に消える現象と同じだった。
「……だから今日の帰り、オレのストラップ買ってくれるよね」
「――――……はっ?」
飴森勇、男子にクリーニング代を請求するどころか
会って間もないヤツにストラップを請求されました。