●飴森くんの王子。
バシン、と気持ちの良い音とともにボールが弾かれたように弧を描く。
視線を追うとボールがネットを超えて相手のコートに矢のように突き刺さるのが分かった。
コートに突き刺さった、と思った。
「…………っと」
けれどもそれは、ボールが地面に触れるギリギリで、
何かがさっと影をよぎって阻止されてしまった。
「あ、黒帝王子っ」
傍で見ていた女子が微かな声を上げる。
サーブを拾われたことによる驚きよりもまず、
黒帝王子ってなんだよ誰だよ、と脳裏にそんな疑問が過るがそれも姿を見れば分かった。
「(――――あ……、)」
黒崎帝。今日うちのクラスに転入してきたわりと静かなヤツ。
まぁ、そんな雰囲気を纏っているのも分からなくもない。
何せあいつは――――……
「あ、ボール上がったよ」
「すごーい。よく咄嗟に拾えるね」
「もう前に走り出してる。打つ気じゃない?」
「頑張ってぇー」
女子の黄色い歓声が俺の思考を遮り、
俺は強制的に目の前の現実へと引き戻された。