●飴森くんの王子。
相手コートを見ると黒崎がちょうどジャンプをしスパイクを放つところだった。
それは例えるなら、黒い帝王が上から見下ろしてるような……うん名前の通りだな。
なんて心の中で余裕をかましている場合ではないことは分かっていた。
ネット際に立っていないことでブロックは不可能、
尚且つバレー部でもないおかげでどこにボールが飛んでくるかも分からない。
つまりは拾える確率も保証も……。
「っ、」
不意に心地よい音が胸に染み込んで、ぶわっと風が駆け抜け髪が弄ばれた。
音もなく黒崎が着地し、一瞬だけ静寂が体育館に訪れた。
……そう、一瞬だけ。
「おおっ、決まった」
「すげぇ黒崎……」
「全部が無駄のない動きだったね」
「か、カッコいい」
男子のどよめきと女子の感嘆の声が一瞬の静寂を破り、
相手チームの男子が黒崎に駆け寄る。
だが黒崎はみんなの視線を一心に集めながらも無表情のまま、
誰にともなく小さく会釈しただけだった。