●飴森くんの王子。
そんなあたしの心の声を知ってか知らずかいや多分知らないけど、
リューはあたしの頭のてっぺんからつま先までジロジロと眺め見た。
「な、なんだよ気持ち悪い」
思わず身を引くと、リューはわざとらしいため息をついた。
馬鹿にしたように肩まで竦めている。殴りてぇ。
「どっからどう見ても男にしか見えねぇなって」
「……は? これが通常運転ですがなにか」
ケンカ売ってんのかコイツ。
あたしは売られたケンカは買い取って
誰かに無理やり押し付けて売る主義なんだけど。
「いやフツーにありえねーから。女子が制服ズボンとか」
「ありえなくはないだろ。うちの学校、制服のズボンとスカート基本自由だし」
「お前の場合紛らわしすぎるわアホ」
「じゃあ学校側に文句言えバカ」
まったく失礼なヤツだ。
これじゃあ一向にリューの好感度は上がらないねご愁傷さま。
こんなヤツと歩いていてもいいことがないな。
もうこうなったら日々部活で鍛え上げている足を使って――
「あ、おいっ! なんで走り出すんだよ!?」
「リューと歩いてたら女の子とキャッキャウフフができないんでねついてくんな!」
「意味分かんねーわコイツ」
「ちょ、だからついてくんなボケぇええっ!!」
不意打ちダッシュをかましリューを振り切って学校まで無事到着!
なんて現実は甘くないんですよねこれが。はいはい夢見すぎたあたしが馬鹿でした。
走っている最中に思いがけず誰かとぶつかるなんてさ。
しかもあたしの理想と妄想ならばここでぶつかった相手は、
女神みたく美しい女の子でそこから二人の禁断の恋が始まるってストーリーなんだけどね。
あ、興味ない?
でも男子だったらもうね、
なりふり構わず謝罪もなしに走り出すわけですよ。
ちなみに今日は男子だったからもちろん全力で逃げた。
あ、一応悪いなとは思ったから軽く頭は下げたけどね。