●飴森くんの王子。
*
下駄箱で靴を履き替え全速力で廊下を駆け抜ける。
あぁ、生徒指導の川口に居合わせなくてよかったアーメン。
教室に着くなり、あたしはようやくホッと息をついて自分の席に座った。
まったくなんで朝っぱらから野郎と登校しなきゃいけないんだよ。
もう高校生ですよ二年生ですよお花も真っ盛りな時期ですよ。
あたしには癒しが必要なんだよ愛しき天使たちのね!
と思ったのもつかの間、廊下からの轟音が鼓膜を揺らす。
「だから置いてくなっつってんだろうがーっ!」
「(…………げぇ、)」
思いっ切りご立腹だあれ。
あれはのちのち面倒くさいことになりそうな予感を漂わせるモノだね。
勘弁してよあたしはあんたなんかのお遊びに付き合ってる暇はないんだよ!
「飴森くんおはよー」
「今日一緒にお弁当食べよ?」
「ねぇ今度さ、うちらと一緒に遊びに行こうよ」
「えー! 私たちの方が先に予約してるしー」
おおぉ……これだよ、これこそがあたしのいるべき楽園だよ。
可愛い天使に囲まれながらアハハウフフ状態だよいやぁ人生って素晴らしい!
「……おい、」
あたしの席までつかつかと、いやドシドシと歩み寄ってきたリューは
憎々しげにあたしをキッと睨んだ。オーコワイコワイ。
あたしが負けじと睨み返していると、リューは予想外の言葉を口にした。
「お前今日、……手紙いくつ入ってた?」
「……は?」
一瞬何を言っているのか分からなくなり、ポカンとなる。
数秒経ってリューの言っていることがラブ・レターのことだと理解した。