先生、と呼べなくなる日まで。

『あっ倉島先生』


だから、輝が親しげに彼の名前を呼んだ時はとても驚いた。

自分がこの先生を知らないのだから輝も知らないだろう、と勝手に思い込んでいたからだ。



『おぉ輝』

彼も輝の名を親しげに呼んだ。



そこで私は、あぁそうか、とようやく思った。

輝は持ち前のフレンドリーな性格と、みんなに頼られる抜群のリーダーシップで、女子男子ともに とても好かれている。

それは先生たちにも共通することで、
輝はどの先生にも自分から積極的に接していて、タメ口で話す先生も多い。


輝のことだから、この倉島先生とももう仲良くなったのだろう。




『先生、あたし今日誕生日なの!プレゼントちょうだーい』

輝は近づいてきた先生の腕をとってもたれかかる。


先生は『おめでとう。でもプレゼントは無しね』と苦笑し、輝を軽く引き剥がした。

『ひどっケチ!』

『だって誰かひとりにあげたら他のやつにもあげなくちゃいけなくなるじゃん?』

輝は気に入らなかったようで、唇を尖らせてブーブーと文句を言っている。




私は、二人のやりとりに口を挟むことも相づちを打つこともせず、ただ窓の外を見ていた。


この学校の2、3階にあるホールの窓は、西向きで全面ガラス張りになっていて、外の景色がよく見える。

特に夕方、この時間帯になると、夕日が遠くの山に沈むのがハッキリと見えてとても綺麗なのだ。

この日は空気が澄んでいて、夕日がいつもより 一層輝いて見えた。
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