君といた季節の中で
僕は、以前何の仕事をしていたのだろうか?
サラに聞いてみた。
「僕は、何の仕事してたんだっけ?」

「忘れちゃったの?今は働いてないよ。前は教師の仕事をしてたよ。」

サラは、ガッカリしてそう言った。

もうそろそろ僕が記憶喪失である事をわかってきただろうか?

僕は、今は働いていなかった。
サラは日中働きに出かける。
夕方になると家に戻ってきた。

今日こそは仕事の話をしょうと
思った。
このまま無職でどうすると少し焦りだしたのだ。

「ただいま」 サラが買い物をして帰ってきた。サラは何の仕事をしてるんだろう?

僕達は一緒に暮らしていながらあまり
会話をしなかった。

彼女は、自分から話をする人ではなかった。僕が話を振らない限り
何かをペチャクチャ喋る人ではなかった。
物静かな人だった。時より空いた椅子を見ながら悲しげな表情を浮かべていたのだった。

「サラ、僕も働きたいんだけどどう思う?」

「まだ無理しないで良いんじゃないかな?私は働いてるし生活的には大丈夫だよ。こうやって二人で暮らせる事だし
まさるが、何処かに行かなければいつまでも暮らせるよ。」とサラは
笑顔で答えたのだった。
僕は何か束縛されてる様な嫌な気分になった。それぐらいの事で嫌になる自分が何故か怖くなった。

僕は、毎日暑い中家で引きこもって暮らした。

何故か此処は何処だか分からず外に出て迷子になるのが怖かったのだ。
寂しくて寂しくて悔しくて
何だか何も分からない自分が怖かったのだろう。

けど今日は、海に行きたくなった。
崖から下の海には行けないから
サラと出会った浜辺に行きたくなったのだ。

僕は崖からずっと東の方へ歩いていった。すると浜辺が見えてきた。

僕はその浜辺で過ごした。
夕方までに帰るようにと思っていた。
そんな時遠くから
子供の声がした。
僕は耳を澄ました。
海の波打つ音がした。
悲しげな海が広がっていた。

子供の声はそれっきり聞こえては来なかった。僕の近くには来なかった。


暑い夏の海、僕は日陰になる木の茂の下で休んでいた。

寂しさが込み上げてきた。サラの悲しげな顔が浮かんだのだ。

「今日は、サラに記憶喪失の事を正直に話そう。」僕はそう思った。

僕は浜辺のギラギラさた日差しを避けられぬまま、家の草原まで歩いた。

夕方になってもまだ明るかった。

サラが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」

サラに記憶喪失である事を告げた。

サラも僕に何かを話そうとしていた。

「まさる。私は凄く不思議でそれでいて不安で怖かったの。どうして
ここにまさるがいるのかって
まさるはもう死んだったって
そして私も死んでるはずなんだって
なのに
まさるも私も生きてるの。
とても不思議なの。
そして怖いの。貴方がまた私達に
暴力振るうんじゃないかって
私は、貴方をあの崖に呼んで突き落とした事を
その後子供と一緒に心中した事。
私達はもう随分前に別れているの
死に別れているの。
貴方は離婚してくれなかったし
仕事も辞めてしまったし
子供にまで手をあげる様になった。

私にも貴方にも頼れる親戚がいなかったから
本当に大変だった。

どうしてこうして二人でここで暮らしてるのかな。

私にも分からないの。

此処は本当は何処なんだろうね」

僕はあまりの事に驚いた。
僕はそんな人間だったのだろうか?

彼女も僕ももう死んでいないならどうしてこうしているのだろうか。

僕は彼女の謝った。
過去の僕が彼女にしてしまった事に
僕らが死ななければいけなくなった事に

あの浜辺で聞こえた声は僕達の子供の声だったのだろうか?

僕達家族は一緒になって幸せに暮らしてそして死の国に行かなくてはいけないのか?そんな気がしてきた。

僕には恐ろしいほどの後悔が
あってなくなったのだろうか?
記憶をなくしたお化けなんだろうか?

本当に生きているのか?
サラは、本当に生きているのか?

僕達は、死んだのか?

お盆の時期になってきた。
僕達は、これからどうなるのかな。
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