Wildcat~この愛をあなたに~
01
仕事も恋もなにもかもうまくいかない日
私は器用な方ではなく恋愛に対しても奥手で不器用なのだ
今日だって怒られてきたばかりでそのモヤモヤをいつもなら呑まないお酒に頼ろうと駅前にある古風なBrに入った
店内は薄暗くやっているのかいないのかわからず店を出ようとするとコンとノックするようにバーカウンターを叩かれた
「1人?」
「はい」
「なに呑む?」
「···ビール」
「ビールね」
でも私の目の前に置かれたのはビールでなく淡い色のカクテルだった
「カクテル」
「嫌い?ゴールデンサンライズそのカクテルの名前」
確かに綺麗なカクテルだけど···
私はカクテルを一口呑んだ
「おいしい」
「ならよかった
どうしたの?暗い顔して」
「元々そんな顔なんだろ」
「一希」
いちき?振り返ればもう1人、買い物袋を持った人が後ろにいた
「そんな顔の作りって」
暗がりでもわかる一希さんの顔
整っていて綺麗だけど顔の火傷の跡を隠すように左目にかかる前髪
「なんだよ?」
「別に···」
「化け物みる目だな?」
顔を近づけられて少しぎょっとする
「一希、早く冷蔵庫に物しまいなよ」
たしなめるように一希さんに言う
奥に行ってしまった一希さんを見ながらまたカクテルを呑む
「親の虐待らしいよ」
「えっ···」
「一希の左目はほとんど見えてない
何回か持ちかけられたらしい手術の話し
でも断った
一希は忘れたくないんだよ復讐してやるって
痛みを忘れなければ生きてるってことになるらしい
まあ人のこととやかく言いたくないから」
「それって悲しいですね」
「なにが?」
「なにがって復讐なんて悲しいだけです」
「ふーん帝から聞いた?」
「あっはい」
「んでおまえは俺の渇きを癒してくれるの子猫ちゃん?」
ついと顎を持ちあげられ一希さんの方を見る形になる
吸い込まれそうな瞳に慌てて視線を逸らす
「私はただ」
「あーおもしれ」
「へっ?」
お腹をかかえるようにして笑う一希さん
帝さんも真に受けてというように笑っている
「バーカ、からかったんだよ」
「ひどい女の子を弄ぶなんて同情して損しました」
「同情ね
今までそうやって何人にだまされたっけな」
「私はそういうつもりじゃ」
「帝、カクテル奢ったれ」
「まったく一希の店じゃないんだから」
楽しそうな帝さんと一希さんにつられて笑っているとまたドアが開いた
「やあ楽しそうだね」
「ボスのお出ましだ」
< 1 / 32 >

この作品をシェア

pagetop