Wildcat~この愛をあなたに~
「一希、またサボって」
「客なんかいないんだから無駄」
一希さんはどこから持ってきたのかわからない缶ビールを一口呑んでいた
「もう、でお嬢さん
ここになにしに来たんだい?」
「えっ?」
ここってBrじゃないの?
「呑んでなにか忘れたい?って飲み方じゃないね
暗い顔してる」
「一希?」
「ん~デートしてみる?」
えっ?またからかってる?
一希さんはダーツの矢に手を伸ばすとバックショットで的を射抜いた
「すごい」
「んで答えは?」
「えっ···」
「なんもしねぇからついてこい」
「一希、これ買い物リスト」
あれ?さっき買い物に行ってなかった?
あれってこの缶ビールだけだったのかな
「ああ忘れてた
あなたの心を癒やしますBr兎の穴の一希です」
「あっえっと美空です」
「ミクね」
一希さんに名前を呼ばれてどきりとする
「へっ?」
一希さんに手を掴まれて私は更にどきりとする
「こういうの初めて?」
先程とはうってかわる甘く優しい声に私は頷いた
「はい」
「おまえさどういうのがいいわけ?」
「えっ?」
「ん~言ってくんなきゃわかんねぇし
ほら王子系とか俺様系とかねぇのそういうの?」
「別にないです」
「あっそ」
階段を昇りきり地上に出ると初夏の生温い風が頬にあたる
「一希さんあの」
「ん?」
「一希さんならどうします?
恋人たとえば好きな人に裏切られたら」
「どうっすかなぁ
半殺しにするかな(笑)」
笑ってそんなこと言わないでよ
「やっぱり一希さんに相談したのが間違いでした」
「なにされたんだよおまえ」
「えっ?」
「聞いてやる」
「一希さん」
「ただしアドバイスは求めるなよ
苦手なんだよそういうの」
一希さんは頬をかきながら言う
「うん」
「ほら言えよ早く」
「私、彼と同棲してたんです
もちろん私のマンションでですよ
私がいつもみたく家に帰ったら彼が浮気してました」
「ありがち」
「へっ?」
「おまえに魅力なかったんだろ」
「だって5年もつきあってたんですよ」
「たかが5年だろ」
「やっぱり···」
「なんでおまえはそうやって拗ねるんだよすぐに」
私は一希さんによって壁に押しつけられた
「···一希さん?」
不器用で優しいキス
一希さんはすぐに離れて歩きだしてしまう
離れる前、耳元で囁かれた頑張れよの言葉
「おいてくぞ」
私はパタパタと走り一希さんの手に手を絡めた
「待ってください」
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