Wildcat~この愛をあなたに~
青紫の跡が浮かぶ体
それを覆うように不器用ながら巻かれた包帯
「なんだよ?」
「···ごめんなさい」
私はそっと背中に抱きついた
細いけどしっかりした体
一希さんは私に向き直りぽんぽんと頭を数度なでてくれた
「同情なんてしないでいい」
「同情なんてしてないです」
私はすかさず一希さんに言う
一希さんはまた困ったように笑ってから私を壁に押しつけた
それから確かめるように滑る手
「期待してる?」
服の上から胸を触られどきりとする
「別にしてません」
「ふーん」
一希さんは私の後ろにあったシャツに手を伸ばした
「残念でした」
「遊ばないでくださいよ」
「な~んてな」
「へっ?」
油断したときにキスをする
それは一希さんらしいやり方
「おまえさなんで捨てられたの?」
カチッと音がしたのでなにかと思えば一希さんがタバコに火をつけた音だった
「えっ···」
「浮気っておまえにも原因ありそだけど」
一希さんになにか言おうとしたところで私のスマホが鳴る
自然とこぼれたため息の相手はよりによっての彼氏
留守電にしようと思った矢先、一希さんの手が伸びる
「ダメ」
必死に抵抗したけど一希さんの手はスマホを掴んでいた
「もしもし美空?
謝りたいんだ」
謝りたい?
なんで今更···
「おまえが悪いのに?」
「誰?」
「答える必要なんてないだろ
自分の部屋に帰って来て仮にも仕事で疲れててあんたに癒やしを求めてた
でもあんたは美空を蚊帳の外に追いやった最低なのはおまえだろ」
スマホの通話をきり私に手渡した
「ありがとうございました」
「別に」
一希さんは少し寝ると言うので私はお店に戻った
「一希が気に入るなんてどんな魔法?」
帝さんが柔らかく笑いながら言う
帝さんの笑顔は本当に柔らかい
「別にそんなんじゃありませんよ」
「僕にはまるで恋人みたくみえるよ」
「そんな···」
こんと置かれたカクテル
「スイングフィーリング」
揺れる心···
まるで今の私だ
青いカクテルを一口呑んでため息をついた
「私ちゃんと話してみます
明日も来ていいですか?」
「待ってるよ」
帝さんに見送られて私は自分のマンションに向かった
タクシーの中で何度もスマホを確認する
マンションのエントランスをくぐって2階にあがる
いつもと変わらない風景
高鳴る心臓の音がうるさい
玄関のドアを開けるとやっぱりそこに槙がいた
「ただいま」
「ごめん」
「私やりなおさないから」
< 4 / 32 >

この作品をシェア

pagetop