Wildcat~この愛をあなたに~
鍵ここに置いとくね
私の部屋なのになんか変な感じ
「おまえが仕事で忙しいって言うからいけないんだろ」
もう槙の言葉は聞こえない
私は必要な物だけを集めて部屋を出た
もう二度と訪れることのない私の部屋
でもこれからどこに行こう
明日も来ていいですか?
なんて言ったけど今日、帰る場所すらない最悪
泣きだしたい気持ちを抑えて重たい荷物をひきずってタクシーを止めた
どちらまで?
私はすぐに答えられずにいた
考えて絞りだしたのは駅までの一言だった
駅についてもどこに行くでもなくしかたなく柱の陰でうずくまった
寂しい···
「なにやってんだ?」
聞き慣れた声に顔を あげた
なんでタイミングよく現れるの
「別に」
「泣いて震えてバカだろおまえ」
「バカですよ」
強がってみたけど一希さんにはバレバレで
「ついてこい
おまえみたいなのがウロウロしてると迷惑だ」
はい?私は一希さんに引っ張られるように改札をくぐった
それから電車に乗って何駅か通過したところで一希さんは電車を降りた
「電車で通ってるんですね」
「駐車場ないからなうちの店」
確かにそうかも
一希さんは閑静な住宅街を抜けた先にある築何十年というアパートの階段を昇ろうとしていた
「えっ···」
「そこ錆びてるから」
全体的に錆びてるし老朽化激しい
2階にあがるのも一苦労でようやくあがった先に部屋があった
部屋のドアもあまり建て付けのいいものではなかった
でも部屋の中はシンプルながら意外に広くバス·トイレ付きだった
「なに突っ立ってんだよ」
「えっあっはい」
「つーか壁薄いからあんま寝息たてんなよ」
「私いびきなんてかきません
ってありがとうございました」
「なにが?」
「助けてくれたんですよね一応」
「別に
つーか荷物置いたら出かけるぞ」
私は返事をして荷物を部屋の隅に置いた
すると一希さんはテーブルに置き去りの鍵を取った
私は慌てて一希さんの後を追う
アパート近くの駐車場に一台の車が停まっていた
「これ一希さんの?」
「レンジローバーなちなみに」
まるで主人を待つようにエンジンをかけると唸りをあげた
「どこに?」
「飯」
「そうですよね」
一希さんはタバコに火をつけながらハンドルをきる
「なに?」
「なに?って」
「おまえさもう俺に鞍替えしようとしてる?」
「してません」
「じゃあ優しくしてやるのやめようかな図にのるから」
「うっ···」
「おまえなぁ泣くなんて卑怯だろ」
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